ノーコード総研

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Nocode Summit2022参加レポート

2022.10.04

皆さんこんにちは。

9月29日, 30日にパリで開催されたNocode Summit 2022にリモート参加しました。海外のカンファレンスの参加方法や、個人的に面白かったセッションを2つご紹介をしたいと思います。

今回の記事は、実際にノーコードのプロダクト開発に携わっている方に興味を持って読んでいただけると思います。

海外のカンファレンスをこれまで視聴したことがなかったのですが、非常に刺激的な内容で、把握していなかったノーコードの導入事例も知ることができ、とても良かったです!

Nocode Summit2022とは

Nocode Summitとは、世界中の注目のノーコードプロダクトを提供する企業やノーコードを業務で積極的に利用する企業が一堂に集まり、各々のセッションで自社プロダクトをアピールしたり、導入事例を紹介する国際的なカンファレンスです。スピーカーも各企業のCXOレベルの方々や実務者で構成されており、普段は話を聞けない方々の話をリアルタイムで聞くことができます。しかもスピーカーは100人以上いるとのことでした。スポンサーもノーコード界隈で有名な企業が名を連ねており、bubble, Glide, makeなどの振興系の企業から、Microsoftのような有名企業まで幅広く協賛していました。また、Webアプリ制作、モバイルアプリ制作、バックエンド構築、中にはノーコードのセキュリティやバージョニング機能を提供する企業など、カテゴリも非常に多彩で規模の大きさを感じました。
カンファレンスのサイト自体もWebflowというWeb制作のノーコードプロダクトで作られており、本当にノーコード一色の夢のような祭典です。本当は現地に行って参加したかったのですが、さすがにそこまではできず、私はリモートで参加をしました。

参加方法について

リモートでの規模の大きなカンファレンスへ参加は想像しづらいかと思いますが、次のような手順で参加が可能です。

チケット購入

・カンファレンスのサイトからチケット購入サイトへ移動
・すべてフランス語表示なので、まずはGoogle翻訳ですべて日本語に変換
・チケットのタイプがいくつかあり、下表の右手にあるリモートチケットを選択(Google翻訳がないと誤って高額なチケットを購入していたかも。。)
・あとは指示通りに購入するだけ

参加サイト

購入を終えると、リモートでも快適にセッションを視聴できる専用サイトのURLがメールで送付されます。
私は今回初めて知ったのですが、swapcardというイベント開催のプラットフォームで、その領域ではリーダー格のプロダクトだそうです。セッションが同時並行で行われたり、アジェンダやスピーカーが多数ある場合には、こういったプロダクトを使って管理するのが便利ですね。私も開催日までにめぼしいセッションをブックマークしておきました。ただ、残念なことに4セッションが同時進行だったものの、1セッション(同一の部屋)の視聴に制限されており、選択もできず悲しい思いをしました。。。

セッション参加

この専用サイトでは、タイムゾーンを日本に切り替えることができるため、時間を間違えずに参加することができます。時間になったら、セッションの枠をクリックするだけで視聴ページに遷移します。同時翻訳や書き起こしはありませんが、スピーカーは英語で話してくれるので、頑張って聞くことになります。一部フランス語のセッションもありましたが、ほとんど英語なので概ね聞き取りは可能かと思います。後日ありがたいことに、視聴できたセッションについてはアーカイブが出たため、そちらで聞き取れなかった部分は補足することができました。ただ、先述した通りほとんどのセッションが視聴できず、当日はサイト内のチャットで「ビデオが見れない!」というコメントが続出していました。もしかするとトラブルだったのかもしれません。

Glide, FINNのセッション

トラブルはあったものの、学びのあるセッションがいくつかありましたので、特に皆さんにご紹介したい2つのセッションについてまとめました。
一つ目は、モバイルアプリをノーコードで制作するプロダクトであるGlideのセッション、二つ目は、車のサブスクリプションサービスを提供するFINNがノーコードプロダクトをサービス実装に取り入れた際の事例を紹介するセッションです。

ノーコードの有名プレイヤーGlide

Glideは、まだまだ日本国内では認知度が低いものの、グローバルではノーコードの代表格として知られている主に業務系のモバイルアプリを制作するノーコードプロダクトです。スピーカーはCEOのDavid Siegelでした。
まずは彼らの事例の紹介から入ったのですが、少し前まではあまり大きな事例がなかった印象ではあったものの、PGAという米国のプロゴルフ協会の事例が加わっており、時代の変化を感じました。この事例では、PGAで働く技術職でない職員がゴルフの結果を記録したり問題を報告する紙業務をモバイル化していました。元々は全て紙で管理していた情報を全てデジタル化したそうです。もちろんノーコードで制作したため、開発者は全く開発に関わっていません。彼らのサイトにも事例として紹介されていたのですが、しっかりとしたモバイルアプリに仕上がっています。
Siegel氏はPGA以外にもいくつかの事例に触れ、「これまでビジネスサイドから、ビジネスを知らない開発サイドに仕様書や要件を渡して作成していたが、それでは認識齟齬が生まれてしまう。各業務を知っている専門家自らがアプリを開発するというのが、ノーコードの特別なところと言える。」とノーコードの醍醐味をオーディエンスにアピールしていました。

また、彼はモバイルアプリの需要はストアに公開されているアプリではなく、業務で使う領域にこそあると話していました。氷山の見えている部分がストア公開されている、見えていない部分は未公開のアプリ、我々はこの見えていない業務領域にフォーカスしている、とのことです。
おそらくBtoCのモバイルアプリの事例がほとんどないためこのような話をされているのだと思いますが、BtoCに強いヤプリ側の私としては意義を唱えたい部分ではありました。

このあとが彼の話の面白い部分だったので、ぜひご覧頂ければと思います。
セッションの中盤で、モバイルアプリを開発する上でGlideが重要だと考えていることは次の4つだと、紹介をしてくれました。一つ一つ具体的に考えを話してくれたため、簡単にまとめておきます。
・Data
・Logic
・Time
・Design

Data
企業で働く人は、すでにスプレッドシートの中にデータを持っている。
ただ、スプレッドシートは、①アプリケーション、②開発環境、③データベースを全て同じインターフェースで提供しているため制約も生じてしまう。
この3つの特性を同時に持っていることから、多くの人に分配することができない(おそらくデータを変更する危険性を伝えないのだと思います)。
ただGlideはできる。

Logic
Glideでは難しい数式などは書かずGUIでロジックが作れる。
絵文字も使いながらポップに画面上で作成が可能。

Time
デザインが時代遅れになってしまえばユーザーは利用をやめてしまうかもしれない。
なので、Glideではデザインアップデートを定期的に行っている。
ユーザーは何も設定変更せずともGlideがデザインシステムを自動的に変更している。
(来年2023年にもデザインシステムのアップデートを予定しているため、2年に一度変更していることになります)

Design
Design is harder than code.
デザインには多くの側面があり、下記のようなものに加えてダークモードへの対応も入ってくる。本当に難しいのはデザイン。
・Typography
・Color
・Shapes&Symbols
・Animation
・Interaction…

通常、ノーコードの議論ではデータやロジックに話題をフォーカスしがちですが、デザインの説明に多く時間を割いていたのが印象的でした。実際私もヤプリの業務で感じるのですが、デザインは非専門家が一朝一夕にできるものではありません。特にBtoCのモバイルアプリはデザイントレンドの移り変わりが早く、基本を覚えても数年でその基本が風化してしまう可能性すらあります。Glideでは、大袈裟にいうと、ユーザーにデザインをほとんどさせません。デザインのパターンをいくつか用意し、そこから選択するだけです。業務系の領域では実際この程度で問題ないことが多く、いかにユーザーに考えさせず、一方でデザイン全体の調整を定期的に行うことで満足度を下げない工夫をしているかが伝わってきました。さらに、特別な設定を行わずとも、モバイルとPC両方で最適なデザインに表示が切り替わる点も素晴らしい仕様です。
2023年の春にはバージョン3が登場するとのことですので、楽しみに待ちたいと思います!

期待のスタートアップFINN

FINNは2019年に設立された、車のサブスクリプションサービスのドイツ企業です。まだサービスが立ち上がってから3年ほどしか経っていないものの、大型の資金調達をおこなっている期待のスタートアップと言えます。
こちらのセッションでも、FINNの社員が会場に来て発表してくれました。FINNは彼らのサービスだけでなく、ノーコードをうまく導入した事例としても有名のようで、ブログで内部のエンジニアがまとめてくれているため、こちら を読んで頂けると具体的な取り入れ方やPros/Consがわかりやすいかと思います。
彼らの面白い点は、ノーコードをあらゆる箇所で使うという哲学を持っており、非効率/人手による労力を回避することが原則となっていること。創業者がノーコードで実装することを思いつき、従業員にも利用することを促しているそうです。現状、顧客に見えるフロント部分はコードを書くものの、裏はノーコードツールのAirtableなどと繋げる、などの使い方がされているそうです。上述のブログによると、初期はフロント部分もWebflowを利用していたらしく、かなりノーコードの利用が推奨されていることがわかります。スタックとしてはmake (自動化ツール), Airtable, Nocode (これら2つはデータベースのノーコードツール),Retool(業務系の社内ツールの作成ツール)とのことでした。

FINNはディーラーに足を運んで購入するという、何十年も変わらない旧態依然の自動車産業の販売サイクルを変えようとしているため、かなりの苦労があったそうです。彼らはサブスクリプションサービスのため、車の利用から返却までの全体のライフサイクルを担う必要がありますが、そのサイクルの中では作業の遅れがあると顧客を怒らせてしまうため、重要なタッチポイントが多数存在していました。請求書を未だに手紙で送っており、eメールでの送付方法を知らない、さらにAPIが何なのかすら分からない企業もいるため、そういった古い業界に入り込むのに非常に苦労したと語っていました。そういった旧態依然のシステムを変革するため、様々なパートナーやシステムを連携させていく必要があり、その部分をmakeという自動化ツールに担わせています。

下記の画像はFINNの従業員のブログに記載されてる図になります。(integromatはmakeのプロダクト名)

ただ、事業規模が大きくなってくると、それに伴い大きな課題がいくつか現れるようになったそうです。主に3つ挙げてくれていたため、下記にそれらをまとめます。
バージョン管理
従業員が、車のマスターデータが保存されているAirtableのフィルタリング機能を使ったところ、誤って本番にフィルタリングごと反映させてしまい、本番のWebサイトに車が一台も表示されない問題を起こしてしまうことがあった。本番データに簡単にアクセスできてしまうのは非常に危ない。

ドキュメント
初見の従業員にはドキュメントが複雑すぎて、ワークフローの理解が難しくなってしまう。

セキュリティ
API連携で複数のシステムを連携させるためにクレデンシャル、APIキーなどを利用するが、その管理を初期はあまり気にしていない。ただ、大型の調達を行うにあたり、セキュリティ確認のためのテストを投資家から求めらるのが課題となった。

バージョン管理では、従業員がデータレイヤーを自由にさわれてしまうため、簡単にデータをさわれたり、テーブルを定義できてしまうなど、制限をかける必要がありました。負荷に耐えられるデータベースも必要となったため、元々はAirtableでデータ管理していた構成を変更したそうです(ちなみにAirtableには5回のコール/秒という制限があるため、サービスをスケールする際の大きな障壁となってしまいます)。変更するにあたり、データベースはスケールしやすく従業員が直接触ることのできないようPostgresSQLを採用、UI上の見やすさやAPIの生成を実現するためにNocoDBを利用するなどの工夫を施しています。
さらに運用データを可視化するためと思われますが、Retoolも導入しているとのことです。このように、ノーコードではないPostgresSQLの上にノーコードのNocoDBとローコードのRetoolを配置することで、開発サイドの領域とビジネスサイドの領域をうまく分割しています。ただ、先ほど紹介したmakeはまだシステム連携の中核として活躍しているそうで、ノーコードのポテンシャルの大きさを感じました。

最後に

今回、初めて海外のカンファレンスにリモート参加したのですが、7割ほどのセッションが視聴できないというアクシデントはあったものの、新しい情報をCXOクラスや実務の最前線にいる従業員から直接聞けたのは大きな学びとなりました。特にFINNについては、サービスがスケールしてもノーコードが利用可能という実例を示してくれたため、ノーコード提供企業にとって非常に嬉しいものでした。
さて、実はまだいくつか年末にかけて海外カンファレンスが控えているため、時間が許せば参加してみるつもりです。意外と費用も安く抑えられ、開催地がアメリカでない限りは無理なく参加もできるため、皆さんもいかがでしょうか。
それではまた!

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